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広島高等裁判所岡山支部 昭和40年(行コ)4号 判決

岡山県児島郡興除村大字中嶹六八四

控訴人

小橋工業株式会社

右代表者代表取締役

小橋照久

右訴訟代理人弁護士

笠原房夫

児島市味野一六〇〇

被控訴人

児島税務署長

高橋勇喜

右指定代理人検事

川本権祐

鴨井孝之

大蔵事務官 渡辺岩雄

中本兼三

法務事務官 福島豊

右当事者間の法人税更正決定取消請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、双方の申立て

1、控訴人の求める裁判

「原判決を取り消す。被控訴人が昭和三七年六月二七日、控訴人に対してした、昭和三六年度(同三五年一〇月末日より翌三六年八月末日まで)の法人税の課税標準である所得を一〇五四万三〇〇〇円とする更正決定につき、七七四万三〇〇〇円を超える部分を取り消す。訴訟費用は一、二審とも被告訴人の負担とする」との判決

2、被控訴人の求める判決

主文同旨の判決

二、双方の主張と証拠

当事者双方の主張および証拠の提出・援用・認否は、左記のとおり付加・訂正するほか、原判決事実摘示に記載するところと同一であるから、これを引用する。

1、訂正

原判決二枚目裏一〇行目に「右更正決定に対し」とあるのを、「右更正決定のうち、前記株式譲渡に関する差額二八〇万円の加算の部分を不服とし」と改め、同四枚目裏八行目に「譲渡は」とあるのを「譲渡時」、同五枚目裏七行目に「譲渡価格とは」とあるのを「譲渡価格と」に訂正する。

2、控訴人の主張の補足

控訴人会社がその所有の冨士商事株式四〇〇株を取締役二名に譲渡したのは、昭和三六年二月二二日であるが、冨士商事は藤井製作所とともに同月二五日の株主総会において、合併期日を同年六月一日とする合併決議をした。そして藤井製作所は右決議後、合併前の同年三月末日現在の株主に対し、一株につき一株の増資新株を割り当て、他に二〇〇〇万円の新株を公募して増資し、株価もこれに伴つて変動した。

しかし、この増資は冨士商事の株主には関係がなく、なんらの利益もない。合併後の冨士商事の株式が藤井製作所の株式と等価値になることは当然であるが、被合併会社である冨士商事の合併前の株式は、その会社の財産状態により評価するのが妥当であろう。しかるに、被控訴人が、冨士商事の株主も増資新株割当による新株引受権があるかのごとく看做し、合併期日(昭和三六・六・一)の藤井製作所の株価をもつて、取引日(同・二・二二)現在の冨士商事の株式の評価をしたのは、不当である。

3、被控訴人の主張の補充

藤井製作所が一株につき一株の増資新株を割り当て、他に二〇〇〇万円の新株を公募して増資したことは認める。

被控訴人が譲渡株式の評価を譲渡時における藤井製作所株式の時価(新株八〇〇円)によらず、合併期日のそれによつたことは、評価額の確実を期する見地に出たもので、不当のそしりを受けるいわれはない。控訴人は、「冨士商事の株主にも新株引受権があるかのごとく看做し」云々と非難するが、前記合併時(昭和三六・六・一)の藤井製作所の株価は、同年三月の増資権利付きの株価とは無関係であつて、冨士商事との合併を見込んで取引された株価である。この間の事情は、左記の藤井製作所の株価の推移によつて明白である。

イ、昭和三六・二・二二の株価は旧株八三〇円、新株八〇〇円

ロ、同・三・二七の株価は旧株一〇一〇円、新株一〇〇〇円であるが、これは三月末現在の株主に対する増資新株引受権利付きの最終価額である。

ハ、同・三・二八の株価は旧株六二五円、新株六一五円であるが、これは右権利落ちの価額である。

ニ、同・六・一の株価は旧株三九〇円、新株四〇〇円である。

理由

一、当裁判所は控訴人の本訴請求を失当とするが、その理由は、左記のとおり付加するほか、原判決理由中に説示するところと同一であるから、これを引用する。

二、甲一、二号証の記載内容について

原判決理由掲記の甲一号証によれば、控訴人会社の取締役たる小橋正志、同佐夜子、同千鶴、松浦喜市は、昭和三七年五月一七日午後五時控訴人会社社長室において、控訴人会社と代表取締役小橋照久との間の本件株式(ただし二〇〇株分)の譲渡を承認しないとし、照久に対して訴訟を提起する場合に会社を代表すべき取締役として、正志を選定する旨の決議をしたものとされている。しかしながら、当事者間に争いない身分関係によれば、佐夜子は照久の妻、正志は照久の子、千鶴は正志の妻、松浦は照久の親族であつて、佐夜子以下四名のうちから選定された取締役正志が会社を代表して照久に対して提訴するというごときは、照久を筆頭とする親子二代の夫婦にとつては、由々しき一大事といわなければならない。しかるに同二号証によれば、当の照久を議長として、佐夜子、千鶴、松浦の出席した取締役会が前記決議に引き続いて開かれ、控訴人会社と取締役小橋正志との間の本件株式(ただし二〇〇株分)の譲渡を承認しない旨の決議がなされたというのであつて、同一、二号証の記載内容はとうてい真実に合致するものと認め難く、後日これを他人に見せようとする作意に出たものと認めるほかはない。

三、本件株式の評価について

1、藤井製作所が昭和三六年三月末現在の株主に対し、一株につき一株の増資新株を割り当て、他に二〇〇〇万円の新株を公募して増資したことは、当事者間に争いがない。そこで控訴人は、この点を捉えて、被控訴人が富士商事の株主にも増資新株割当てによる新株引受権があるかのように看做し、合併時(昭三六・六・一)の存続会社の株価をもつて譲渡時(同・二・二二)の解散会社の株価をきめるのは不当である、と抗争する。

2、しかしながら、原判決理由掲記の乙一号証の一ないし三、同三号証によると、

イ、昭和三五年一二月一〇日締結の合併契約により、藤井製作所(甲)は富士商事(乙)を合併して存続し、乙は解散すること、合併をなすべき期日(翌三六年六月一日)において、甲は乙の額面一〇〇〇円の株式一株につき甲の額面五〇円の株式二〇株の割合で新株を、また新株一株につき交付金三円一三銭を乙の株主に交付すること、甲、乙はともに同三六年二月二五日に株主総会を招集し、合併契約の承認決議をうることが約定され、

ロ、富士商事は同年二月二五日の株主総会で、前記合併契約の承認決議をした(両会社が同年六月一日に合併したことは当事者間に争いがないから、藤井製作所も予定の期日に株主総会で承認決議をえたものと推認される)が、

ハ、右合併契約後、承認決議の直前である本件株式の譲渡時(昭三六・二・二二)の藤井製作所の株式(額面五〇円)は、東京店頭株としての取引価格が一株八三〇円、新(無償分)八〇〇円であつたことが認められる。

3、以上の認定を左右すべき証拠はなく、これによると、本件株式の譲渡当時、富士商事の株式は藤井製作所の株式の時価に応じて評価・取引されたものと認めうべく、その時価は一株(額面一〇〇〇円)一万六〇〇〇円と認めるのが相当であるが、被控訴人は、合併時の存続会社の株価が新株(額面五〇円)一株につき四〇〇円となつたので、評価の確実を期する見地から、合併時の株価を基準として、一株(額面一〇〇〇円)につき八〇〇〇円と認定したというのであつて、株価認定の基準時点が合併時となつたことは、控訴人にとつて利益でこそあれ、不当とするのは当たらない。

4、そして控訴人は、富士商事の株主が合併前の藤井製作所の増資に与からなかつたことを云々するけれども、前記譲渡時から合併時に至る間の被控訴人主張の株価の推移の事情は、控訴人の明らかに争わないところであるから、これを自白したものと看做すべく、これによると、合併時における藤井製作所の株価(額面五〇円一株につき四〇〇円)は、増資による新株引受権利付きの株価とは無関係と認められる。しかも、被控訴人の株価の認定は、前述のように、ほんらい認定すべき価額をはるかに下廻る価額になつているのであるから、たとえ増資により株価に若干の変動があつたとしても、本件の結論に影響しないというべきである。

四、結語

よつて、民訴三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 林歓一 判事 可部恒雄 判事 八木下巽)

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